忙しい間を縫って、わずかな時間で愛しいモノたちを整理しつつ眺め、ホッと一息ついていたときのこと。戦前・戦後の絵葉書やカードを集めたアルバムの中から、2枚の古い絵葉書が目に留まりました。
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キューピーさんたちのお餅つき! 小さな杵を重そうによいしょと振り上げ、ねじり鉢巻きも勇ましいものの、動きや表情に子供らしいぎこちなさが表れていて、何とも可愛らしいですね。
左では着物を着た少年少女が、楽器を打ち鳴らして囃し立て、キューピーさんを応援しているようです。「早くお餅が食べたいな!」と、せかしているようにも見えます。お正月向けの絵柄なのは間違いないでしょうね。
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こちらも同じくお正月の様子を描いたもので、お屠蘇とお重箱‥‥これはおせち料理が入っているのでしょう‥‥まるでお神輿のように、ワッショイワッショイと楽しげに運んでくるキューピーさんたちです。
お餅とくればお次はお屠蘇。どちらも子供たちが大好きな、お正月に口にできるのを楽しみにしているものですよね。左の子供たちも、今や遅しと待ちかねていることが、表情や身振りに描かれています。
子供たちの好きなものをもたらしてくれるキューピーさん。少なくとも絵を描いた人にとっては、キューピーさんとはそんな、幸せを運んできてくれる存在だったのでしょうし、子供たちにとってもそれが違和感なく受け入れられていた、ということなのでしょう。当時の世相をあれこれ思い浮かべて、ほっこりとしたひとときを過ごしたのでした。

キューピーさんつながりで思い出されたのが、最近発売となった『アメリカの芸術と文化』。放送大学の教科書なんだそうです。この中の記事の一つ、栩木玲子さんが書いておられる「キューピーとアメリカ」、興味深く読ませていただきました。アメリカで生まれたキャラクターとしてのキューピーの歴史はもとより、日本にやってきてからいかに受け入れられ、今日まで人気を博してきたかについても、詳しくまとめてあります。‥‥なんて、実は、私のコレクションを使っていただいたご縁で、この本を頂戴しただけなのですが。上に掲げた絵葉書と同じシリーズで、キューピーさんが羽子板で遊んでいるものを紹介していただきました。ありがとうございました。
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せっかくですから、本書の目次も紹介させていただきましょう。

1.アメリカの20世紀
2.キューピーとアメリカ
3.ウォルト・ディズニーのアメリカ
4.ポップと民衆の声
5.カントリー音楽の成り立ち
6.戦争と社会
7.ジョン・ウェインのアメリカ
8.テレビドラマと社会
9.エルヴィス・プレスリーの出現
10.ジャズと即興芸術
11.カウンターカルチャー
12.癒しの聖地 ヴェトナム戦争戦没者記念碑
13.身体意識と消費文化 転換期としての1980年代
14.ヒップホップのスタンス
15.芸術、文化、アメリカ

おもしろそうですよね。アメリカ発祥のものって、わりと当たり前に身近にあるせいでしょうか、何か機会がないと、きちんと知識として勉強することはまずなさそうですが、この本をお送りいただいたご縁で、たくさんの新鮮な驚きに出会えそうです。ご興味のある方は、ぜひお手に取ってご覧ください。

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近刊をもう二つご紹介させてください。

以前から気になっていた、刈部山本さんの『東京「裏町メシ屋」探訪記』(光文社知恵の森文庫)をようやく入手しました。山本さんのライフワークといってよい、街中にある個人経営の食堂や酒場を食べ歩いて記録された、渾身の一冊です。カバー写真や帯も素敵な雰囲気で、お料理もおいしそうですね。

心に刺さったのが、あとがきの中の一節。「日々なにかにと追われるように忙しく過ぎていく生活の中で、もしちょっとした遠出、食べ歩きといったものが気晴らしになるならば、本書で取り上げた場所やお店に縛られず、各々の出かけた先で、自分なりの風景の楽しみ方、お店との出会いを探ってもらいたい。(後略)」
大いにウンウンとうなずきました。自分を顧みても、一体何でこんなに追われているんだろうと、思うこともしばしば。周りに合わせて便利になったはずが、かえって面倒で不便になったような部分も‥‥。でも救われているのは、大好きな古物たちや風景があること。山本さん同様、大好きなモノやできごとを日々大切にしてゆきたいですね。
私の住んでいる街でも、歴史のある個人のお店が世代交代できず、残念ながら廃業されたり、人手に渡ったりといったことが少なくありません。劇的に変貌してゆくかつての東京の一角を、記憶にとどめておきたいと思われる向きにも、大いにお勧めできる1冊です。
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これはまだ読んでいない(ゴメンナサイ)のですが、南陀楼綾繁さんの本ということと、表紙絵に惹かれて思わず手に取った本なのでご紹介。
お茶の水駅前の丸善に入ったら、「本の未来について考える」(だったかな、確かそう)と、手書きの大きなPOPが目に入りました。出版に関わる仕事をしてきた私としては、とても気になって平積みされた本に目を落とすと、あったのがこの『蒐める人』。南陀楼さん著ということもあり、手に取らずにはおられませんでした。
帯に書かれた文を見て、そうそう、誰に命じられたわけでもないのに、まあよく歩き、訪ね、あさって、あつめてきたよなあ‥‥としみじみ。9人のコレクターの方にインタビューされたとのこと、どんな楽しみや悩みがあるのか、カバー絵の嬉しそうな男性の表情にもそそられて、読む前からワクワクしています。